デッドストックとは結局何だったのか
なんだ?このドラマ。
夏クール、テレ東が叩き出した問題作。
それが『デッドストック~未知への挑戦』(以下デッドストック)というドラマだった。
大体どんなドラマかと言うと、
「テレビ東京の本社移転に伴い、見つかった未使用素材。主人公達は『未確認素材センター』所属となり未使用素材を確認していく中で『明らかに普通ではない映像であり、テレビ番組として使用されなかった素材』……つまり、『怪奇現象や異常事態の映像』を発見し、その追加取材をすることで番組を作ろうとする───」
と言うもの。気になったのなら一度ご自身で検索していただきたい。
ちなみに、テレ東が本社移転したのは事実。
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先に述べると、このドラマはホラードラマである。
題材も、幽霊の出るトンネルでの取材だったり、呪われた人形の話だったりする。終盤に差し掛かると、主人公の新人AD常田 大陸(つねた りく)とその母親についてのとんでもない秘密が暴かれていったり、本物の超能力者がいると言う話になっていく。
(一瞬でもSPECのことを思い出してほんとにごめんな……と思った。ダンガンロンパ十神で浩之が露骨にディスってたじゃないか、なぜ学ばなかっ……いやいや、SPECはあれはあれでおもしろかったんだよ!?ただ題材が大きくなりすぎただけと言うか……)
最終回直前までは大陸の母親と、その仇である超能力者の話で2話ほど裂き、この問題は最終的に解決する。
その回(TAPE10)の終盤、大陸(りく。大陸と書いて『りく』。演じるのは村上虹郎君)と共に働いているディレクターの早織(なんと早見あかりさんが演じている!かわいい)の「未使用素材の追加取材をした番組を作る」と言う企画が通ったことが、二人の上司であるプロデューサー、佐山(田中哲司さん。めちゃくちゃ渋い)から明かされる。
その番組タイトルは『未知への挑戦』。テレ東らしい、攻めた企画と言うことでゴーサインが出た、と言うことらしい。
……が。
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(※この辺から最終回のネタバレを含みます。閲覧はお気をつけください)
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最終回は、今までとテイストが違う。
要は半ドキュメンタリー風のドラマになる。と言うかドラマなのかどうかもちょっと怪しいくらいだ。
今まではこのドラマの為に用意したであろう題材ばかりだったが、最終回は70年代頃からメディアにも出演している実在する超能力者・スプーン曲げの清田君と言う方をテーマにする。
この回、その清田さんご本人が出演されており、同時に清田さんを含む数名の超能力者のドキュメンタリー(『職業欄はエスパー』と言うドキュメンタリー)を撮った監督として、このデッドストックでも監督を務める森達也さんが本人役で出演する。
その時点で、元々虚実入り交じっていたデッドストックをさらなる虚実不明な世界に導こうとしていることは明らかだ。
フェイクドキュメンタリーでもない。しかし、ドラマと言うのにはあまりにも生々しい。
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物語はまず、大陸と早織が70年代当時の清田君のテープを発見するところから始まる。
「果たしてスプーン曲げは本当なのか?」
彼らは是非、清田君のスプーン曲げを撮影したいと考える。
そして、前述のドキュメンタリーにADとして同行していた(と言う設定の)佐山から森監督を紹介され、彼の伝で清田さんと接触。大陸がハンディカメラを回しながら、彼の自宅を訪ねる………のだが、この辺りから既にドキュメンタリーそのもののような風であり、全員に台本なんてなさそうな、とても和やかなムードかつセリフもまばらな会話パートがはじまる。
清田さんの言葉には、リアルそのものが詰められていた。きっと、あれは本心の発言なのだろう。
「カメラが回っているところでは、もうスプーン曲げはやらない」「メディアの人からすればそれは当たり前なのかもしれないが、突然家に来てスプーン曲げてください、と言うのもおかしな話だ」
それともセリフなのか。あるいは半々なのか、それにしては演技らしからぬテンポと言うか、なんと言うのが正しいか分からないが、明らかに今までのデッドストックとは別物の雰囲気だったことは間違いない。
カメラを止めればスプーン曲げをしてくれるのか、とカメラを置こうとする大陸に、森監督は「なぜカメラを止めようとするんだ。スプーン曲げを撮りに来たんだろ?撮らないなら帰れ」と叱責。まごつく大陸は、結局カメラを止められず、その日は終わってしまう。
結局スプーン曲げが撮れなかったふたり。早織は「スプーン曲げはやはりトリックだったのか」と勘ぐるが、一方の大陸は「決めつけるのは早すぎる」と否定する。
まあ、お前の母ちゃんも超能力者だもんな……前回までの話が話だし、信じるのも当然だよね。むしろここで否定してたら「前回までのお前はどこに消えた……」となってるわけだし。
その頃、佐山と森監督はふたりで食事。「スプーン曲げは実在すると思いますか?」との佐山の問いに、森監督はこう答える。
「実在するかしないか、と言う言い方はさ。目に見えないものに対して使う言葉だろ?神様とか。お前も(ドキュメンタリー撮影中に)見ただろ?スプーン曲げ。」
このセリフもやはり、とてつもないリアルと言うか、説得力を持って視聴者を殴りに来る。
佐山がドキュメンタリー撮影に同行していた、と言うのは、佐山 暁と言う人物がドラマのキャラクターである以上、そのように作られている設定でしかない。けれど、森監督がドキュメンタリーを撮った事実は変わらない。故に、佐山と森監督の会話にも妙な事実感がにじみ出てくる。
そして森監督は言う。「山登りをしないか?」と。
なんでも、清田さんは時折山登りをしており、その時にもしかしたら何か撮れるかもしれない、と言うのだ。
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そして山登りに同行する一同。やはりここでも、大陸のカメラ映像などを多く使用し、「取材している」状態を如実に描いていく。
ここから先の物語、そしてその後森監督が大陸と早織に語るメディアの真実についてはご自身で確認していただきたい。
だが、ひとつだけ言えることは、大陸が撮った映像では結局スプーンは曲がらないが、ドラマラストの映像では清田さんはスプーンを折っている。
しかもこの時、森監督は「ほんとに折っちゃダメだよ、カットカット」と発言しており、同席の佐山含め全員がマジでビビっている様子がドラマ撮影班のカメラで撮影されている。ちなみに清田さんは笑っている。
これは果たしてどういうことなのか?
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そのラストシーンを見た時に、私の脳はキャパシティを越えた。
つまりこれは現実だったのか、ドラマだったのか?その境目を見失ってしまったのだ。
元々デッドストックは、テレ東移転と言う事実から生まれた虚実入り混じった設定のドラマだったが、それでも一応ドラマだった。
今まで出てきた未確認素材だって、昔の映像と言うことにはなっているものの、一応作り物だ。
しかし、これはちょっと訳が違う。だって出てくる人はみな実在の人物だ。森監督も清田さんもフィクションではない。
ノンフィクションな人物のドキュメンタリー撮影に、フィクションであるはずの佐山が絡んでいる。ノンフィクションの森監督に、フィクションの大陸が怒られている。
ディレクター役のはずの早織が、早織という定を被った早見あかりとして、清田さんとナチュラルに会話をしている。
フィクションがノンフィクションに浸食された。そんな、感じだった。
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ちなみに、今までもちゃんとおもしろかった。ドラマとして。
今回もとてもおもしろかったが、同時に考えさせられることとなった。
メディアからは、どんな姿が真実として視聴者の目に映るのだろうか。
そしてそれは森監督も、言っていた。
「どんなことが起きても、それが真実なのだ」と───。
これは、単なるドラマではない。報道やテレビに一石を投じる、問題提起の一策でもあったと思ってしまう。
そして、それが出来るからこそ森監督なのだ、と思うほかはないだろう。
結局果たして、このドラマは何だったのだろう?
未だに、正しい答えを出すことが、私には出来ない。